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横浜地方裁判所 昭和46年(行ウ)17号 判決 1973年6月27日

原告 ジョンソン・スチュアート・マイルズ

被告 横浜中税務署長

訴訟代理人 成田信子 外三名

主文

一、原告の本件請求のうち、被告が原告に対して昭和四五年四月三〇日付でなした原告の昭和四三年分所得税の更正ならびに過少申告加算税賦課処分の取消を求める部分は、これを却下する。

二、原告のその余の請求は、これを棄却する。

三、訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一申立

一、原告

1、被告が昭和四五年四月三〇日付「昭和四三年分所得税の更正加算税の賦課決定決議書」を以つて原告になした原告の昭和四三年度分所得税の更正および過少申告加算税の賦課決定ならびに同四五年八月二七日付同名の文書を以つて原告になした原告の右同年度分所得税の再更正及び過少申告加算税賦課決定処分は各々全部につきこれを取消す。

2、訴訟費用は被告の負担とする。

との判決。

二、被告

1、本案前の申立

(一) 本訴請求のうち、昭和四五年四月三〇日付更正処分および過少申告加算税賦課決定処分の取消を求める部分を却下する。

(二) 訴訟費用は原告の負担とする。

との判決。

2、本案に対する申立

(一) 原告の請求をいずれも棄却する。

(二) 訴訟費用は原告の負担とする。

との判決。

第二、主張

一、原告

(請求原因)

1、原告は、西暦一九〇一年生れで所得税法上居住者に該当するものであるが、昭和四三年一月一日横浜市中区山手町四五番四所在の宅地四五四・六七七平方メートル、同番五所在の宅地三七七・五五三平方メートル、同番一九所在の宅地三四・五七八平方メートル(原告の持分三分の二)および同番二〇所在の宅地一〇三・八〇一平方メートル(原告の持分四分の三)(以下これらの宅地を「本件不動産」という。)を訴外関東不動産管理株式会社(以下「訴外会社」という。)に現物出資として引渡し、同訴外会社の普通株式(発行価額は一株につき額面額の金五〇〇円による。)を二万六、四〇〇株取得した。

2、ところで、原告は、昭和四四年三月一五日昭和四三年度分所得税確定申告、昭和四五年二月二三日同修正申告をなしたが、右修正申告の際本件不動産の譲渡所得として前記株式の発行価額である額面総額金一、三二〇万円を基準とし、その結果得られる金二八六万二、五〇〇円を以つて譲渡所得として申告し、同修正申告に基づき原告が納付すべき所得税額を同年四月一四日までに納付した。しかるに被告は、同年四月三〇日付「昭和四三年分所得税の更正加算税の賦課決定通知書」を以つて原告の申告に係る譲渡所得金額を金八〇四万六、四〇〇円(総所得金一、〇〇三万二、三五六円)に増額更正し、老年者控除金七万七、五〇〇円は適用ない旨更正し、その結果申告納税額を原告の申告額より金二四五万〇、三〇〇円多い金三八七万八、四〇〇円(総税額三八九万五、五〇〇円)と更正し、同時に金一二万二、五〇〇円の過少申告加算税を賦課する決定をなした旨通知し、(以下これを「本件更正処分」という。)さらに同年八月二七日付右同各文書を以つて右更正決定通知中に税額計算の誤りがあつたとして申告納税額を金三九八万九、二〇〇円(総税額四〇〇万六、三〇〇円)と増額再更正し、過少申告加算税を金一二万八、〇〇〇円賦課する決定をなした旨通知(以下これを「本件再更正処分」という。)した。原告は、被告の本件更正処分を不服として昭和四五年六月一〇日東京国税局長に対し異議の申立をなし、同年九月八日右申立が棄却されるや、さらに同年九月二五日国税不服審判所長に対し審査請求をなしたが、同四六年四月二七日同審判所長はこれを棄却する旨の裁決を下し、同決裁書謄本は同月二九日原告に送達された。

その経過は、別紙一記載のとおりである。

3、被告がなした本件更正処分にはつぎの理由が付されており、また本件再更正処分には「本件更正処分の税額算定に計算上の誤りがあつたので再更正する。」旨の理由が付されている。

即ち、原告が申告において、本件不動産の譲渡により得た収入金額を、取得した前記株式の発行価額たる額面総額金一、三二〇万円としたのは誤りであつて、所得税法第三六条第一項、第二項の規定により取得した株式の取得時における時価により収入金額を算定すべきである。

そして、被告によれば右時価の算定は、現物出資により本件不動産が引渡される直前の昭和四二年一二月三一日現在における右訴外会社の貸借対照表の資産の額に、現物出資の結果同会社の資産となるに至つた本件不動産の時価(訴外会社が本件不動産を受け入れた際不動産鑑定士のなした評価額)を加えた金額を、右訴外会社の発行済株式総数で除して一株当りの金額を算出し、これに原告が現物出資の結果取得した同会社の株式総数二万六、四〇〇を乗じて計算すべきものとし、そのような計算方法により算出した金二、二二八万一、六〇〇円をもつて原告の取得した株式の取得時における時価である、とした。

しかして、被告の計算方法により算出した収入金額を基にして所得金額を計算すると原告の昭和四三年における総所得金額は金五〇〇万円を超えることになり老年者控除が適用されない結果となるから、本件不動産の譲渡所得を前一の二のとおり更正し、所定の過少申告加算税を賦課した、としている。

4、しかしながら被告の右計算方法は、所得税法第三六条第二項の解釈を誤つたもので、その結果本件更正処分およびこれと同一内容の本件再更正処分は、いずれも違法なものとして取消さるべきである。

(一) 譲渡所得課税の目的は資産の値上りによりその資産の所有者に帰属する増加益を所得としてその資産が所有者の支配を離れて他に移転するのを機会にこれを清算して課税するものと解されている。ところで譲渡所得金額の算定は譲渡の対価として現実に受くべき収入金額を基礎として算出するものであり、対価が金銭以外の物または権利その他の経済的な利益をもつて収入される場合には、これら物または権利を取得し、もしくは利益を享受する時に於る価額によるものとされている。(所得税法第三六条第二項)。

(二) 本件は現物出資として譲渡された資産の譲渡所得に関して収入金額を算定する場合に関するものであり、当該資産の対価が金銭として受取られるのではなく株式として受取られるものであるから右所得税法第三六条第二項が適用されることになるのであるが、本件における争点は右同条にいわゆる「物又は権利を取得する時における価額」との条文の解釈如何にかかつている。

(1) 被告は、右条文の意味を物または権利を取得する時の時価を指すとして、株式の額面によらずに市場性のある株式については取引相場が、市場性のない株式についてはその相続財産評価法による価額がそれぞれ時価であるというのであるが、株式の価額が同法第三六条第二項の適用の関係で問題となる一事例即ち株式配当により取得する株式の価額については所得税法施行令第八三条は「配当を受けた株式にかかる収入金額はその株式の額面金額(無額面株式の場合は発行価額)による。」旨規定しているのであつて、このような規定があることから考えても同法第三六条第二項は必らずしも常に被告の主張するような時価の意味に解釈すべきではない。

(2) ところで、同条文中には取得した物または権利の価額の算定方法を何ら規定していないのであるから、他に特別な定めのない限り同条文の意味は所得税法の下における具体的な課税の目的に照らし公平の見地に立つて合理的に解釈すべきものである。

現行所得税法の下における資産の譲渡所得に関する所得金額の把握方法を概観するに、ある資産の売買取引がなされたとき、売主の譲渡所得は当該取引によつて約定された売買代金を基礎にして算定されるのであつて、その資産の客観的な時価によるものではないのである(但し無償ないし低廉譲渡の場合は例外である。)。

そしてこのことは資産譲渡の対価が金銭であろうと物または権利によつて得られようと所得金額把握の原則を異にしなければならない理由はない。即ち対価が物または権利により得られる場合においても、当事者が当該物または権利の価額を定めていれば(これはとりもなおさず当事者が譲渡する資産自体の取引価額を定めていることになる。)その当事者の定めた価額によるべきことを当然としなければならない。したがつて同法の第三六条第二項の「物又は権利を取得する時における価額」とは次のとおりに解釈すべきである。

(イ) 取引当事者がその物または権利につき定めた価額があればこれによる。

(ロ) 右約定価額の存しないときは、当事者が通常これに依つたであろうと考えられる価額として取引の時において当該物または権利につき客観的な取引価額が存する場合にはかかる客観的な取引価額による。

(ハ) 右約定価額、客観的取引価額も存しない場合には合理的な方法によりその価額を算定する。

(3) そこで本件の現物出資について同法第三六条第二項を適用する場合の解釈について考察するに、

(イ) 現物出資とは会社と出資者との間において出資者は現金に依らず現物で出資し、会社はこれに対して株式を発行して交付するという一つの取引なのである。

しかして株式会社法の下における資本充実の原則に従い現物出資をする場合においても出資する資産は金銭による適正な評価が下され、その評価額に見合う数の株式が現物出資者に対して発行されるのであり、その発行される株式数はもとより右評価額を発行価額で除して得られるのである。これは右取引において一面において出資する資産をその適正に評価された金額で会社に譲渡することを合意すると同時に他面において右評価額を出資額として株式の発行を受けることを意味している。従つて右出資額は現物出資者が取得する株式について、取引当事者である会社と出資者間において定めた取引価額であるといわねばならない。

(ロ) 株式が発行される場合、これが会社設立時の発行であると新株発行であるとを問わず、発起人または取締役は当該発行すべき株式の一株当りの発行価額を定めることになつており、この発行価額は発行される株式が額面株式であると無額面株式であるとを問わず定めなければならないのであるし、また額面株式を発行する場合においても常にその額面価額と同額に定められるとは限らないのである。そして発行価額は株式を発行する会社がその都度自由に決定し、これを希望する者に対して公表するという意思表示というべきものであつて、出資希望者は当該発行価額により株式引受の申込をなすのであつて、これはあたかも一般の物品の売買において売主が提示する価額に対しその価額で購入することを欲する買主がこれを買い受けるのと同様である。かかる意味において株式の発行により取得される場合の株式は発行価額という当事者双方の意思表示により定められた価額を有しているのであつて、当事者間にその対象となる価額を定めることのない相続や贈与によつて取得される場合とはその性質を異にするのである。

よつて現物出資による資産の譲渡につき譲渡所得金額を所得税法第三六条第二項によつて算出する場合は、第一に取得する株式につき取引当事者の定めた価額というべき出資金額が存在するのであるからこれをもつて収入金額とすべきことになるし、第二に仮に右出資額を当事者の定めた取引価額と認めないとしても右株式につき当事者が依つたであろうと解すべき「発行価額」なる客観的取引価額が存するのであるからこれに基づいて出資額ないし取得した株式の「発行価額」の総額として収入金額を算定すべきことになるのである。

(被告の主張についての認否)

被告の主張のうち、1項中の事実関係はすべて認め、同3項の本件譲渡所得以外の所得金額についての主張は争わないが、その余の主張は争う。

二、被告

(本案前の申立の理由)

原告の昭和四三年分所得税にかかる同四五年四月三〇日付更正処分(本件更正処分)は、同一年分について同四五年八月二七日付で再更正処分(本件再更正処分)がなされているので、後の処分に吸収され、その存在を失つたので独立して取消を求める利益はない。

(請求原因に対する認否)

1、請求原因1ないし3項の事実は認める。

2、同4項のうち(一)項、(二)項の冒頭の主張は争わないが、その余の主張はすべて争う。

(被告の主張)

1、本件更正処分および本件再更正処分中の本件譲渡所得にかかる収入金額の算定方法

(一) 所得税法第三六条第二項は、譲渡所得の計算上金銭以外の物又は権利その他経済的な利益をもつて収入する場合の収入金額は、その金銭以外の物又は権利その他経済的な利益を取得した時の価額によると規定している。

ところで、原告は、その主張のように昭和四三年一月一日に原告が代表取締役である訴外会社に対して、本件不動産を現物出資として引渡し、訴外会社の記名式額面普通株式(以下「株式」という。)二六、四〇〇株を取得したものであるから、当該現物出資により生ずる譲渡所得の収入金額は、原告が取得した右訴外会社の株式の時価によることとなる。

(二) そして右株式の時価は次のとおり算定される。

(1) わが国における中小株式会社の株式の大部分は証券市場に上場されず、しかも、株券の流通がまつたくなされていない状況であるところから、株式の時価を算定する場合には、証券市場に上場されてその流通性が保障されている株式(以下「市場性ある株式」という。)と一般に公開されていない株式(以下「取引相場のない株式」という。)とに区別して算定することが必要となる。すなわち、市場性ある株式の時価は、市場価格により容易にその価格を把握することができる。一方、取引相場のない株式の時価は、市場価格がないところから市場性ある株式のようにその価額を容易に把握することはできないため、その時価の算定は次に述べる方法によることとなる。

(2) 取引相場のない株式であつても、市場性ある株式の発行会社と比較してその事業規模、取引金額および資産の保有状況等が類似するような規模の会社が発行している株式の時価は、その会社と類似の営業を営む会社の株式が有する市場価格を基に、配当金額、利益金額および純資産価額等を勘案して算定することも可能であるが、事業規模、取引金額および資産の保有状況等がきわめて小規模であつて、しかも当該会社の株式の大部分を特定の株主ないしはその同族関係者等によつて所有されているような会社では、その株主は当該会社を支配する地位にあり、株式は会社資産の持分としての性格に重きがおかれてくるのであるから、そのような大株主が所有する株式については、類似業種会社の株式が有する市場価格を基に株式の時価を算定することは著しく不合理なことであり、このような小規模な会社の株式の時価は、純資産価額によつて評価するのがもつとも合理的な方法ということができる。

資産の時価に関する算定方法を定めている相続税財産評価通達によれば、取引相場のない株式で同族株主が取得した株式の評価は、会社の規模に応じ類似業種比準価額法、類似業種比準価額を基礎としてこれに純資産価額等を加味した評価法および純資産価額法によることとされているが、右通達は、資本金が一億円未満、総資産価格(帳簿価額)が三千万円未満で、かつ、年間取引金額が六千万円未満(但し卸売業については総資産価額五千万円未満、取引金額一億五千万円未満)であるいわゆる小会社の株式の評価については、純資産価額法によることとしている。

(3) ところで、本件増資により株式を発行した訴外会社は、昭和四一年一二月二日に資本金九四〇万三、〇〇〇円で設立され、その後一回の増資を経て本件増資の直前の決算期である昭和四二年一二月三一日現在の資本金は一、八四〇万三、〇〇〇円、資産の帳簿価額は一、九五九万六、一七二円であり、右訴外会社の昭和四二年一月一日から同四二年一二月三一日までの事業年度における取引金額は、二四一万二、〇〇〇円(雑収入は除く。)しかも原告が発行済株式の約九九・九パーセントを保有する同族会社で、株式は上場されず、売買事例もないのであつて、とうてい類似業種比準価額法を採用しうる事業規模を有せず、右相続税財産評価通達に規定する小会社に該当するものであるから、右訴外会社の株式の評価は、純資産価額法によるのがもつとも合理的な算定方法であるといえる。

(4) 右に述べた純資産価額法は、会社が保有する資産の額(時価による評価換後の額)から負債の額を控除した純資産の額を同日現在の発行済株式総数で除して一株あたりの評価額を算定する方法である。

しかして本件増資にかかる払込期日は昭和四三年一月二日であるので、新株発行の効力はその翌日である同四三年一月三日に発生することとなるのであるから、本件株式の評価は、右訴外会社の昭和四三年一月三日(以下「評価日」という。)現在における右訴外会社の資産の額から負債の額を控除した純資産の額を同日現在の発行済株式総数で除した一株あたりの時価を算定することとなるが、右訴外会社は、本件増資直前の昭和四二年一二月三一日で決算を行つているので、当該決算により作成した貸借対照表を基にして評価日現在の純資産の額を算定すると次のとおりとなる。

(イ) まず、本件各処分に際してなした算定によると、つぎのとおりである。

右訴外会社の昭和四二年一二月三一日現在の貸借対照表を基礎とし、当該貸借対照表に計上されている資産のうち、土地および建物については不動産鑑定士が作成した鑑定評価書に記載されている評価額により評価換を行つたうえで資産の総額を三、五九四万九、三四〇円と算定し、右金額から負債の額二五三万五、六一八円および欠損金一三三万九、四四六円の合計額三八七万五、〇六四円を控除した金額三、二〇七万四、二七六円に本件土地の評価額(不動産鑑定士が作成した鑑定評価書に記載されている金額)二、一三二万一、三六三円を加算して純資産の額五、三三九万五、六四一円を算出した。右純資産の金額を昭和四三年一月三日現在の右訴外会社の発行済株式総数六三、二〇六株で除して一株あたりの時価八四四円を算出し、これに原告が現物出資により取得した株式数二万六、四〇〇株を乗じた二、二二八万一、六〇〇円を本件譲渡所得にかかる収入金額と認定したものである。

(ロ) ところで、その後被告が正しく算定したところによるとつぎのとおりである。

a 資産の価額

<1> 右訴外会社の昭和四二年一二月三一日現在の貸借対照表に計上されている資産の総額は、流動資産一四九、八二七円(当座預金一二九、八九八円、現金一〇、〇〇〇円および前払費用九、九二九円の合計額)および固定資産一九、六八〇、〇〇〇円(土地一四、八〇〇、〇〇〇円、建物四、六〇〇、〇〇〇円および車輛二八〇、〇〇〇円の合計額、ただし、建物および車輛については減価償却累計額を控除しない額である。)の合計額一九、八二九、八二七円であるが、当該貸借対照表に計上されている固定資産のうち土地一四、八〇〇、〇〇〇円および建物の一部三、六〇〇、〇〇〇円は、右訴外会社の設立ならびに昭和四一年一二月二七日の増資に際して原告から現物出資として引渡しを受けたものであつて、不動産鑑定士が作成した鑑定評価書による評価額と帳簿価額とを対比して示すと次のとおりとなる。

種類

用途

所在地

評価額(円)

帳簿価額(円)

差額(円)

評価の日

土地

宅地

横浜市中区山手町四五番の三

一三、九〇九、〇〇〇

六、九〇〇、〇〇〇

七、〇〇九、〇〇〇

昭和四一年

一一月一八日

土地

宅地

横浜市中区山手町四五番の六

一五、四三七、九四〇

七、九〇〇、〇〇〇

七、五三七、九四〇

昭和四二年

一月一八日

建物

木造厚型スレート葺二階建居宅

横浜市中区山手町四五番の三

三、七二六、〇〇〇

二、五〇〇、〇〇〇

一、二二六、〇〇〇

昭和四一年

一一月一八日

建物

木造亜鉛メツキ鋼板瓦葺二階建居宅

横浜市中区山手町四五番の六

一、七四三、〇〇〇

一、一〇〇、〇〇〇

六四三、〇〇〇

昭和四二年

一月一八日

合計

三四、八一五、九四〇

一八、四〇〇、〇〇〇

一六、四一五、九四〇

右固定資産のうち、土地については、本件評価日以前に鑑定評価が行なわれており、土地の価格は日々騰貴しているところから、右評価額は本件評価日現在の時価を上回つていないものと認定して右評価額を本件評価日における評価額とし、また、建物については、右評価額によつて取得されたものと認定して資産の額を算定した。

<2> 右訴外会社は、建物および車輛について帳簿価額を基礎として減価償却費の計算を行なつているが、本件純資産の価額を算定するにあたつて建物のうち現物出資にかかるものについては、評価額を基礎として減価償却費相当額を算出するのが合理的であると認められるので、当該評価額を基礎として右訴外会社が保有する減価償却資産の減価償却費相当額を算出すると次のとおりとなる。

種類

事業の用に供した年月

価額(円)

耐用年数

償却率

使用期間

減価償却額(円)

建物

四一年一二月

三、七二六、〇〇〇

二四年

〇・〇四二

四一年一二月から

四三年一月まで

一六四、三一四

建物

四一年一二月

一、七四三、〇〇〇

二四年

〇・〇四二

四一年一二月から

四三年一月まで

七六、八六五

建物

四一年一二月

一、〇〇〇、〇〇〇

二六年

〇・〇三九

四一年一二月から

四三年一月まで

四〇、九五〇

車輛

四一年一二月

二八〇、〇〇〇

五年

〇・二〇〇

四一年一二月から

四三年一月まで

五八、八〇〇

合計

六、七四九、〇〇〇

三四〇、九二九

(注)ハの建物およびニの車輛は現物出資により取得した資産ではないので、取得価額を基礎として計算したものである。

<3> 本件増資により、原告が右訴外会社に対して昭和四三年一月一日に引渡した土地は、本件評価日現在において右訴外会社が保有する資産であるから、資産の額に算入されることとなるが、その価額は本件現物出資にかかる検査のため選任された検査役大谷喜代士が作成した検査報告書に添付されている鑑定評価書によれば、二一、三二一、三六五円であり、当該価額を本件現物出資により引渡された土地の評価額と認定した。

<4> 右に述べたところから、評価日現在における右訴外会社の資産の価額は、<1>右訴外会社の昭和四二年一二月三一日現在の貸借対照表に計上されている資産の合計額一九、八二九、八二七円に<2>本件増資前に現物出費された土地および建物の評価額と簿価との差額一六、四一五、九四〇円((1)に掲げた表の差額欄の合計額)および<3>本件増資により引渡しを受けた土地の評価額二一、三二一、三六五円((3)の金額)を加算した五七、五六七、一三二円から<4>減価償却額三四〇、九二九円((2)に掲げた表の減価償却額欄の合計額)を控除した五七、二二六、二〇三円となる。

b 負債の額

右訴外会社の負債の額は、昭和四二年一二月三一日現在の貸借対照表によれば二、五三五、六一八円(未払金二二、一一八円、借入金二、四二七、五〇〇円、前受金八〇、〇〇〇円および未払税金六、〇〇〇円の合計額である。)であり、決算の翌日から評価日である昭和四三年一月三日までは年始の休暇であるところから、当該負債の額は評価日まで異動がなかつたものと推認し、同額を評価日現在の負債の額と認定した。

c 純資産の価額

右に述べたところから、右訴外会社の評価日現在の純資産の価額は、資産の価額五七、二二六、二〇三円(1(5)の金額である。)から負債の額二、五三五、六一八円(2の金額である。)を控除した五四、六九〇、五八五円となる。

右において算定した右訴外会社の純資産の価額五四、六九〇、五八五円を基に、本件増資により原告が取得した新株の一株あたりの時価を算定すると、当該一株あたりの時価は、右純資産の価額五四、六九〇、五八五円を評価日現在の発行株式総数六三、二〇六株で除して得た金額である八六五円となる。

原処分における本件株式の時価の算定方法については、前記(イ)で述べたとおりであるが、原処分は、本件株式の時価を算定するための基礎となる純資産の価額を算出するにあたつて、資産の額から負債の額を控除したうえ、さらに右訴外会社の昭和四二年一二月三一日現在の貸借対照表に計上されている前期繰越欠損金九五九、六七五円および当期損失金三七九、七七一円の合計一、三三九、四四六円をも資産の額から控除している。

しかしながら、前記繰越欠損金および当期損失金は、複式簿記の方法により誘導される名目的数値であつて、本件純資産の価額を算定するにあたつて資産の額から控除すべき性質のものではない。したがつて、原処分が本件株式の一株あたりの時価を八四四円とした計算方法には誤りがあり、本件株式の一株あたりの時価は、前に述べたとおり八六五円が正当な時価となるが、右の時価を基に譲渡所得にかかる収入金額を算定すると二、二八三万六、〇〇〇円(右一株あたりの時価八六五円に本件増資により原告が右訴外会社から交付を受けた株式数二六、四〇〇株を乗じた金額である。)となり、原処分が算定した譲渡所得にかかる収入金額二、二二八万一、六〇〇円を上回わることとなる。

2、被告の右算定方法が合理的であること

原告は、本件譲渡所得にかかる収入金額につき、原告が本件現物出資の対価として得た訴外会社発行の株式数にその発行価額(本件の場合額面額)を乗じたものとすることを相当とすると主張するが、右主張はつぎのとおり理由がない。

(一) 原告は、資産の譲渡の対価が金銭により得られる場合には、取引価額をもつて収入金額として取扱うのであるから、対価が物又は権利により得られた場合においても当事者が当該物又は権利の価額を定めていればその当事者の定めた価額によるべきであるとして、本件における現物出資により交付された株式の価額について、「株式会社法の下における資本充実の原則に従い現物出資をする場合においても出資する資産は金銭による適正な評価が下され、その評価に見合う数の株式が現物出資者に対して発行される」から、「当事者が一面において出資をその適正に評価された金額で会社に譲渡することを合意すると同時に他面において右評価額を出資額として株式の発行を受けることを意味」し「従つて右出資額は現物出資者が取得する株式について、取引当事者である会社と出資者間において定めた取引価額であると言わなければならず………株式はすべて一律に『発行価額』によつて発行されることから見れば、『発行価額』は発行時における株式の客観的な取引価額である」と主張し、本件についての譲渡所得の収入金額は、株式の額面価額によつて算定されるべきである旨主張する。

しかしながら、譲渡には、売買のほか、交換、競売、公売、収用、物納および本件の如き現物出資等いろいろの態様のものがあるが、所得税法はその収入金額の計算について同法第三六条で規定しているのであつて右譲渡の態様のうち、売買の如くその対価を金銭で受領する場合は、その代金額を収入金額とするのであるが(同条一項)、その対価を金銭以外の物や権利等をもつて取得する場合は、譲渡する物や権利等の評価額やその名目額(額面額)によるべきものとせず、譲渡によつて取得する物や権利等のそのものの取得の時における価額、すなわち時価(取得時の経済的価値)によつて収入金額を計算すべきものとしているのである(同条第一項かつこ書、第二項)。

したがつて、現物出資にかかる譲渡所得の収入金額は、当該出資により取得した株式の額面価額とは関係なく、取得した株式自体の経済的価値により算定されることになる。

(二) 前述の如く本件譲渡所得の収入金額は、原告が現物出資により取得した訴外会社の株式の経済的価値により算定されるものであるが、右経済的価値とは、交換価額、換言すれば、その株式が不特定多数の者の間で自由な取引が行なわれる場合に成立する客観的交換価額でなければならない。

原告が現物出資の目的とした土地の評価額は、原告も自認されている如く二、一三二万一、三五六円であるにもかかわらず、右訴外会社の取締役会は本件土地の価額を一、三二〇万〇、〇〇〇円と決定しているのであるが、現物出資にかかる譲渡所得の収入金額は、所得税法第三六条第二項に定められているとおり、現物出資する資産の価額によるものではなく、現物出資によつて取得した株式の客観的交換価額により計算されるものである。

したがつて、株式の額面価額をもつて本件譲渡所得にかかる収入金額を算定すべきであるとする原告の主張は、失当である。

(三) 原告は所得税法施行令第八三条の規定から見ても、所得税法第三六条の規定を必らずしも被告主張の如く「時価」の意味に解釈すべきものではない旨主張される。

しかしながら、原告が引用する所得税法施行令第八三条の規定は、配当所得の金額(所得税法第二四条)の算出に関して、株式会社が商法第二九三条ノ二、第一項の規定に基づき新たに発行する自己の株式をもつて利益の配当をした場合の特例であり、まさに所得税法第三六条第一項の「別段の定め」に該当する場合にあたるものである。右所得税法施行令第八三条の規定を根拠として、本件譲渡所得にかかる収入金額を現物出資により取得した株式の額面価額により算定すべきであるとの原告の主張は明らかに失当である。

3、本件更正処分および本件再更正処分の適法性

(一) 以上のとおり本件各処分における認定によれば本件不動産の譲渡所得にかかる収入金額は金二、二二二万一、六〇〇円であるところ、これから取得費および譲渡経費金五八八万八、八〇〇円(原告が確定申告書に添付した譲渡所得の明細に記載した金額)、特別控除額金三〇万〇、〇〇〇円(所得税法第三三条第四項による)を控除した差引譲渡益は金一、六〇九万二、八〇〇円となり、これに二分の一を乗じた金八〇四万六、四〇〇円が本件譲渡所得である。

(二) また、原告の昭和四三年分の所得には、前項のほかに不動産所得の金額一〇二万七、五〇〇円、雑所得の金額五六万二、四五六円、給与所得の金額三九万六、〇〇〇円があるので(これらはいずれも原告が修正申告書に記載した金額のとおりである)、その総所得金額は金一、〇〇三万二、三五六円となる。

(三) なお、原告は、修正申告において課税総所得金額を算出するにあたつて、老年控除額金七万七、五〇〇円および基礎控除額一五万七、五〇〇円の合計額二三万五、〇〇〇円を総所得金額から控除しているが、原告の更正後の総所得金額は前記のとおり金五〇〇万〇、〇〇〇円をこえるため、老年者控除を適用することができないことになる。

(四) このため、原告の課税総所得金額は、総所得金額一、〇〇三万二、三五六円から基礎控除額一五万七、五〇〇円を控除した金九八七万四、〇〇〇円(一〇〇円未満の金額は切捨)となる。

被告は、右の課税総所得金額に所定の税率を適用して税額を算出し本件更正処分をなしたが、その税額算定に計上の誤りを発見したので、これを更正するため本件再更正処分をなしたものである。

(五) なお、被告がその後本件株式の評価額を適正に計算すること、前記1の(二)の(4)の(ロ)のとおり、一株あたりの時価が本件処分のそれを上回わり、したがつて原告の本件譲渡所得にかかる収入金額も同様に上回わることになるが、本件処分はその範囲内にありいずれにしても適法である。

(六) よつて、被告のなした本件更正処分および本件再更正処分は適法である。

第三、証拠<省略>

理由

第一、請求原因1、2項の事実については当事者間に争いがない。右事実によれば、被告の原告に対する昭和四三年分所得税の同四五年四月三〇日付の本件更正処分は、同年八月二七日付で、右処分につき税額算定に誤りがあつた(総所得金額については右処分と全く変わらない。)との理由で本件更正処分がなされたところ、本件更正処分はその後の本件再更正処分によつて吸収化体されてその外形が消滅し、その存在を失つたものと解すべきであるから、仮に原告主張のように本件更正処分に瑕疵があつても、後処分の本件再更正処分の瑕疵として承継されることとなるので、原告は後の処分である本件再更正処分のみを取消の対象とすれば足り、もはや前処分である本件更正処分の取消を求める法律上の利益はなくなつたものというべきである。

よつて、原告の本訴請求のうち、本件更正処分の取消を求める部分は、却下を免れない。

第二、そこで、以下本件再更正処分の適法性について検討する。

一、前認定のとおり、原告は昭和四三年一月一日その所有せる本件不動産を、訴外会社の増資にあたり、現物出資としてこれを引渡し、右訴外会社の普通株式(発行価額は一株につき額面額の金五〇〇円)二万六、四〇〇株をその対価として取得した。

二、ところで、右のように不動産を現物出資という形式で法人に譲渡する場合も、譲渡人が右不動産を所有しているうちに生じた値上りによる増加益の所得を実現して譲渡所得を得たことになるから、所得税法第三二条にいう譲渡所得の発生を来すべき資産の譲渡に該当すべきところ、当該資産譲渡による所得が金銭以外の物または権利その他の経済的な利益による収入によつて形成されるときは、その所得たる収入金額の算定は同法第三六条第二項によれば、「当該物もしくは権利を取得し、または当該利益を享受する時における価額」をいうものとされているから、本件の場合、原告が取得した訴外会社の株式の時価によつてこれを算定するものと解すべきである。

原告は、右の収入金額の算定を同人の取得した株式の発行価額(額面金額)によるべきである旨主張するが、つぎのとおり採用することができない。すなわち、原告の主張するところは、要するに、現行所得税法上資産譲渡の対価が金銭であるときは、一定の制限内において、当事者間で自由に定めた価額をもつて譲渡所得に係る収入金額と算定されることになつているのであるから、対価が物または権利等の金銭以外のものであるときも、右の理はそのまま妥当しその物または権利等につき当事者が自由に約定し、または約定したであろう価額によるべきであり、したがつて現物出資者の取得する株式の価額についても、会社と出資者はその有する客観的価値によらずに自由にこれを約定しうるところ、本件のように株式の価額を当事者間で約定したときは、譲渡所得に係る収入金額の算定は右約定価額たる発行価額によるべきであるというのである。

しかしながら、原告も自認するように譲渡所得の課税原理は、保有資産の値上り益に対する課税を、当該資産の譲渡を機会にとらえようとするものであり、その資産の価値ないし値上り益はその際得られた対価によつて顕現したものと見ることができるから、それに基づき算定せざるを得ないところ、その対価が金銭でなされたときは、金銭はその一つの機能として元来他の財貨の価値の尺度たる機能を有するところから、その対価が幾莫の価値を有するか即ち当該資産譲渡によりそれが幾莫の価値に具現したかは、その金銭の数額によつて一義的に定まるのである。それゆえ当該資産の有する通常の取引価額を無視して当事者が所得税法の定める制限内で自由にその譲渡価額を右取引価額により低廉に定めたところで、対価を金銭で収受する限り譲渡人はまさに当該資産譲渡により金銭で表示されたその約定価額の価値のみしか取得することができないのであるから、当該資産を保有していた値上り益も結局その限度でのみ享受したに過ぎないわけである。したがつて、右の場合同法第三六条第一項に規定のとおり、当事者の約定価額を基準として課税すれば、譲渡所得課税の目的からすれば充分である。ところが、その対価が金銭以外の物又は権利であるときは、いかに当事者間でその物又は権利につきそれらの有する客観的価値を離れて取引価額を約定したところで、それはその物又は権利の有する客観的価値に影響を与えないということができる。

換言すれば、譲渡人が対価として得た金銭以外の物又は権利は譲渡人においてその客観的価値を更に価値尺度である金銭に改めて替え得る可能性を常に含むものであるから、当該資産は譲渡により得られた金銭以外の物は権利の客観的価値相当の価値に変換し、譲渡人はその価値をまさに享受したとみることができる。従つて前記譲渡所得課税の目的からすれば、その対価が金銭以外の物又は権利である場合、それが金銭の場合と同一視することは許されず、前者の場合当然その物又は権利の客観的価値、すなわち時価によるべきであるということができ、同法第三六条第二項は右の趣旨を規定したものと解するのが相当である。そしてこの理は、金銭以外の物が額面のある株式であろうとも、株式が額面と異る価格を以つて流通し得る可能性のある以上変りはないというべきである。

また、原告のその他の主張も同条を正解しないかあるいは独自の見解にもとづくものであり、採用することができない。

三、そこで原告が取得した株式の客観的価値を算定することとする。

1、訴外会社は、昭和四一年一二月二日資本金九四〇万三、〇〇〇円で設立されたものであるが、その後一回の増資を経て、本件増資の直前の決算期である昭和四二年一二月三一日現在では資本金が金一、八四〇万三、〇〇〇円、資産の帳簿価額が金一、九五九万六、一七二円となり、昭和四二年一月一日から同四二年一二月三一日までの事業年度における取引金額が、金二四一万二、〇〇〇円(雑収入は除く。)であること、訴外会社は、原告が発行済株式の約九九・九パーセントを保有するいわゆる同族会社であり、また右株式は証券市場に上場されておらず、過去において売買事例が皆無であることは当事者間に争いない。

2、ところで、所得税法には株式の時価の評価方法について何ら規定をもうけていないが、右認定事実による訴外会社の如き小規模の小会社であり、かつその株式が上場されず売買事例もなく、またその株式のほとんどすべてを特定の株主(原告)によつて所有されているような会社では、その株主が当該会社を支配する地位にあり、株式は会社資産の持分としての性格に重きが置かれてくる傾向が極めて強いものというべきであるから、このような株式会社の株式の客観的価額は、被告主張のような純資産価額法によつて評価することが合理的であると解される。原告は、当事者の合意した発行価額が株式の客観的価格であるかの如き主張をしているが、右主張が採用できないことは前に説示のとおりであり、その他訴外会社の株式の時価についての合理的評価方法は主張立証されていない。

3、そこで純資産価額法によれば、会社の保有する資産の額(時価による評価換後の額)から負債の額を控除した純資産の額を、同日現在の発行済株式総数で除して一株あたりの価額を算定しようとするものであるところ、訴外会社における本件増資にかかる払込期日は昭和四三年一月二日なので、新株発行の効力はその翌日である同年同月三日に発生することになる(この点につき当事者間に争いがない。)から、本件株式の評価は、右訴外会社の同月三日現在における右純資産価額法によつて算定することになり、訴外会社は昭和四二年一二月三一日で決算を行つているので、当該決算により作成した貸借対照表を基にして昭和四三年一月三日現在の純資産の額を算定すると次のようになる。

すなわち、被告主張1の(二)の(4)の(ロ)のとおり、訴外会社の右同日現在における資産の額が金五、七二二万六、二〇三円、負債の額が金二五三万五、六一八円であることは当事者間に争いがないから、純資産の価額は、前者の額から後者の額を控除した金五、四六九万〇、五八五円になるところ、これを基に訴外会社の株式の一株あたりの価額を算定するに、右純資産の価額金五、四六九万〇、五八五円を、評価日現在の発行済株式総数であることに当事者間に争いない六万三、二〇六株で除して得た額である金八六五円であることが計算上明らかである。そして、右株式の時価を基に、本件譲渡所得にかかる原告の収入金額を算定すると、右一株あたりの時価金八六五円に現物出資により原告が訴外会社から交付を受けた株式数二万六、四〇〇株を乗じた額である金二、二八三万六、〇〇〇円となる。

したがつて、本件更正処分および本件再更正処分における原告の譲渡所得にかかる収入金額の認定は、適法であるというべきである(なお、被告が本件各処分に際して、前記資産の額から負債の額を控除したうえ、さらに前期繰越欠損金を控除するという計算上の誤りを犯したために、訴外会社の一株あたりの株式の時価を金八四四円として、前記収入金額を算定したことは同人の自認するところであるが、前記認定のように正規の計算によればこれを上回わる収入金額を認定できるのであるから、本件各処分はその範囲内にあり、適法である。)。

4、そして譲渡所得にかかわる収入金額が右のとおりであるとすれば、取得費及び譲渡経費が金五八八万八、八〇〇円(但し、成立に争いない甲第三号証によると金五八八万四、八〇〇円が正しいものと認められるが、本訴においては訂正されていない。)特別控除額が金三〇万円であることは当事者間に争いがないから、これを前記収入金額から控除してさらにこれを二分した金八三二万三、六〇〇円が本件譲渡所得金額となるところ、これが本件更正処分および本件再更正処分における譲渡所得金額八〇四万六、四〇〇円を上回わることは明らかである。

また、右の場合原告の課税総所得金額は既に金五〇〇万円を越えているので、老年者控除を適用する余地がないというべきであり、(所得税法第二条第一項第三号)さらに原告の本件譲渡所得以外の所得額については当事者間に争いがないので、本件再更正処分には結局原告に対し何ら瑕疵がないことになる。

5、以上のとおり、被告の昭和四五年八月二七日付でなした原告の昭和四三年分の所得税に対する再更正処分は適法であり、それゆえ同日付でなされた被告の原告に対する右年分の所得税申告についての過少申告加算税賦課処分もまた(すなわち、本件再更正処分はすべて)適法といわねばならない。

第四、むすび

よつて、原告の本訴請求のうち本件更正処分の取消を求める部分は不適法であるから却下することとし、また本件再更正処分の取消を求める部分は理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法第八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 小河八十次 佐藤歳二 桜井康夫)

(別紙省略)

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